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優しい空白 

自由の形は歪んでいるから成立する。

飛べる空は限られているから
風の心地よさを感じる。

そして僕は、宇宙の構造なんて知らなくても
夜空を彩る光りが何よりも
綺麗だということを知っていた。

緩やかな鎖に繋がれて
見渡せる世界の領域こそが
この世界の全てだった。

けれど、そんな世界の色彩は
大人になるにつれて
目眩がするほど、明るくなって
知りすぎるほど、窮屈になって

空白だけが愛しさを持つようになった。
空白だけが優しさを持つようになった。

人生の中で様々に色づいた色彩を
また空白へと戻す作業・・。

この世界で美しいものは空白だけ・・。






隔離された心 

歳月と成長の中で
言葉は、感情との摩擦を生んだ。

言葉は言葉を重ね
氾濫を繰り返し
感情は心に閉じこめられたまま
鉄格子の柵に、涙を濡らす。

伝わらない想いが
太陽の影に滲み出る時
その陽の当たらない孤独な場所でも
人は人を愛していられるのだろうか。

言葉をください。言葉をください。

偽る必要も、飾る必要もない
まっすぐな言葉をください。

不十分な言葉など
詩となるはずもない。

心という隔離された世界で
感情は自由だけを夢見ている。

言葉をください。言葉をください。

心から抜け出せる言葉をください。

また消えてゆくのは、愛か。




月灯りの後に、1 

月の灯りに見え隠れするそれは
戦い疲れた日々の残像。

構築されないままの人格で
世界の何を見つめても
心は傷つくことしか知らない。

痛みに染まるだけの思い出を
季節が還る場所へ
そっと しまいこんでください。

やがて太陽が小さな夜を飲み込んで
世界には 朝が訪れるだろう。

けれど心は 朝を受け入れる準備も
出来ないまま 時は過ぎていく。

涙を重ねただけの冒険は
遠い日のどこかで
過去に変わることなく漂い続けて
心を切ない痛みで包み込んでいる。

僕は気付いていた。

もう一秒先の未来ですら
痛み無しでは見つめることも
出来ないんだ、と。




月灯りの後に、2 

溺れた夢を見ていた。

眠りの奪われた長い夜に
記憶の欠片は痛々しく輝く。

わずかな風に触れる指先を
届くはずもない夜空へ伸ばしては
月の見えない感触が
やけに悲しい。

過去に映る罪や後悔や痛みが
疲れ果てた心に
何かを語りかけてくる。

定まらない心の焦点は
小さな日常の情報に
絶えず揺らめき続けている。

生や死の意味など
いつの日も見えるはずがない。

まるで不毛な痛みを数えていたね。

貧弱な冒険者の想いは
星屑の夢の中。

生きる孤独といい
死ぬ孤独といい
笑える居場所など存在しないと
悪戯に静かな夜が教えてくれる。

僕は溺れた夢を見ていた。





月灯りの後に、3 

傷心の中で
想うのは心の答え。

激流のような世界の中を
不確かな一つの個体として
漂い続けたその日々。

傷を刻むことだけでしか
生きてゆく方法を知らなかったその日々。

行く宛の見失った心に
そんな思い出ばかりが満ちていく。

触れる度に汚れた愛や優しさ。
偽るほどに沈んだ弱さや理想。

それら濁った涙は結晶となり
世の中のどんな輝きよりも
醜く そして愛しく 光っている。

世界には綺麗なものばかりだと
信じていたのか。

心の汚さや醜さを
いつまでも嫌う人間で居たかったのか。

落ち葉が揺らめくように
一つ一つ真実が散った心に
肩を落として
切なく差し込む月灯り。

やがて新しい太陽が
夜空に弧を描いていくように
次の世界は
また始まりを迎える。





月灯りの後に、4 

夜と朝の隙間に見える空の色彩は
静かな孤独を描いている。

止まったような世界の中で
確実に近づいてくる朝の気配。

終わらない思考は
昨日の答えなど見出せないまま
目の前に広がる未来。

はじまる朝と
消えてゆく夜と
疲れ、弱った心だけが
永遠のように ここにある。

ただ永遠のように ここにある。

刻まれた日々も、言葉も
築いてきたモノも、失ったモノも
全てを洗い流すように

この静かな孤独の中で
夜と朝の隙間にある永遠の中で

ただ、ここで・・。

心は死んだのか。

心は死んだのか。

心は死んだのか。

空白のように時が過ぎて行きます。




月灯りの後に、5 

空は加速し
日々は色褪せて
眠っていた花達は
汚れない笑顔で風に揺れる。

悲しみと呼ばれたいくつかの想いは
雲の一部のように
青空の片隅で漂うだけになり
小さな傷跡は 季節の中で乾いて
そっと消えてゆくだろう。

世界の全ては忘却の中で
その存在の意味を無くし

語り継がれない誰かの悲しみも
語り継がれない誰かの想いも
旅の終わりになれば
穏やかに風化して

憂鬱な心は
静かに落ち着きを取り戻す。

この短い腕の長さで届くくらいの
身近な人だけを想い
このわずかな声で伝えられるくらいの
愛の言葉で

人を、未来を、願う。

季節は変わり 時代は過ぎて
空は流れて。